COVID19医療翻訳チーム(covid19-jpn.com)

有志医療者による海外論文の翻訳、医療情報

CDC_中国によるCOVID19による公衆精神衛生への心理社会的な悪影響☆

翻訳日:2020/04/01

原文:CDC Research Letter  Public Mental Health Crisis during COVID-19 Pandemic, China

☆☆日本語訳者追記☆☆  4月1日現在WHOをはじめ、海外や国内の各機関が精神衛生上のニーズに対応するための推奨事項や具体的戦略を提示しています。参考までに、Web上で公開されている日本語リソースの一例を以下に記載します。

WHO. COVID-19 アウトブレイク中のメンタルヘルスと心理社会的影響に関する検討事項 暫定ガイダンス2020 年 3 月 18 日 改訂版. (2020年4月1日閲覧)
https://extranet.who.int/kobe_centre/sites/default/files/pdf/20200318_JA_Mental_Health.pdf

日本赤十字社. 新型コロナウイルス感染症対応に従事されている方のこころの健康を維持するために. (2020年4月1日閲覧)
http://www.jrc.or.jp/activity/saigai/news/200330_006139.html

日本心理学会. もしも「距離を保つ」ことを求められたなら:あなた自身の安全のために(Keeping Your Distance to Stay Safe)
https://psych.or.jp/about/Keeping_Your_Distance_to_Stay_Safe_jp

CDC Volume 26, Number 7—July 2020 Research Letter
Public Mental Health Crisis during COVID-19 Pandemic, China

抄録

新型コロナウイルス感染症は、2019年の終わりから2020年初頭にかけて中国で出現し、急速に拡大しました。中国では、公衆精神衛生への心理社会的な悪影響を軽減するために、緊急心理的危機介入を実施してきましたが、複数の課題が存在しています。公衆精神衛生への介入は、公衆衛生の準備と緊急対応計画に公的に統合されるべきです。

中国は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの最初の影響を受けた国でした。中国のCOVID-19の流行パターンとその管理政策のいくつかのユニークな特徴が、国民の精神衛生上の危機の高まりを促しました。第1に、2003年に発生したSARSとそれが中国の社会生活と経済に与えた影響を、今も多くの住民が覚えているということです(1)。COVID-19はSARSよりも感染性が高く、その致死率(2.3%)は季節性インフルエンザよりも遥かに高いです(2)。ウイルスの潜伏期間が不明瞭であることや、無症状で感染する可能性があることも、さらなる恐怖と不安を引き起こしています。第2に、政府が最初に流行の深刻さを軽視したことで、政府の意思決定の能力と、その透明性に対する国民の信頼が損なわれたことです。第3に、すべての大都市で前例のない大規模な検疫措置が実施されており、住民を自宅に閉じ込めることが基本となっているため、住民の心理社会的な影響が懸念されていることです(3)。第4に、武漢とその周辺地域では、全市検疫後に個人防護具(PPE)、医療スタッフ、病床の不足が報告され、国全体に大きな不安を与えたことです。最後に、ソーシャルメディア(4)などでの(誤)情報の氾濫という、独特な「情報伝染病、インフォデミック」が、今回の健康の危機的状況の中で、国民の精神衛生に大きな危険をもたらしています。

2003年のSARSおよび2014年のエボラウイルス感染症のアウトブレイクのときと同様に、大衆の間では漠然とした恐怖と、恐怖に起因する過剰反応な行動がみられました。そしてそのどちらも、感染制御を阻害する可能性があります(5,6)。さらに、特に回復した人や最前線の医療従事者のようなリスクの高い人々の中には、うつ病、不安障害、心的外傷後ストレス障害などの精神疾患を患う人もいました(7)。

これらの最近の経験に基づき、中国の国家衛生健康委員会は2020年1月26日に通達を発表し、COVID-19アウトブレイクの心理社会的影響を軽減するために、緊急心理的危機介入の指針を示しました(8)。この通達の中で心理学的な危機介入は、COVID-19アウトブレイクに対する、市や直轄市、省レベルで共同予防・制御機構によって組織された公衆衛生対応の一部に規定され、またその介入は集団ごとに区別されるべきだとされています。介入に従事する人員は、精神科医やメンタルヘルスの専門家が率いる心理的アウトリーチのチームと、心理的支援ホットラインのチームで構成されています。この通知の添付文書には6つのグループ、すなわちCOVID-19にかかった人々、COVID-19の検査を受けている人々、医療従事者、患者さんと直接接触する人々、医療を受けることを拒否する体調を崩した人々、そしてCOVID-19にまだかかっていない多くの人々を対象とした、主要な介入が概説されています(付録参照)。

このような政策ガイダンスの発表は、中国がアウトブレイク時の公衆精神衛生の必要性を認識していることを認めるものでもあります。しかしこの通知では、様々な資源をどのように動員し調整すべきか、あるいはより重要なこととして、どのようなニーズを持つ集団に、誰が、どんな介入を、どんな方法で提供すべきかについては明記されていません。また政策ガイダンスでは、各集団に提供すべき介入の内容とその程度を決定するために、様々な集団をどのようにスクリーニングし評価すべきかについての運用方法も示されていません。中国には確立された精神保健制度がなく、国家規模の緊急対応システムや国家規模の緊急事態や災害時に心理的危機介入を提供するための指定された人員がないことから、この水準での詳細な記載が必要とされています(Chen X, Fu X, unpub. data, https://doi.org/10.16418/j.issn.1000-3045.20200213001外部リンク)(9)。緊急心理的危機介入を成功させるためのその他の大きな課題としては、中国の精神保健医療提供者が深刻に不足している(精神科医は人口10万人あたり1.49人で、そのうち医学の学士号を取得しているのは半数にすぎない)ことや、医療資源の偏在、集団検疫による制限などが挙げられます(9)。例えば、病院、大学、様々な組織が、資格や経験の異なるボランティアによるホットラインを多数設置しています(8)。このような善意の努力は、調整がなされず監督も不十分であるため、サービスの利用者を混乱させ、資源の運用を非効率的なものにする可能性があります。

中国で報告された課題は、スマートフォンが広く普及していることを考慮すると、多くの発展途上国にとって、精神衛生への質の高いケアを利用する際の障壁を取り除くために、遠隔医療を検討すべきであることを示しています。特に資源の少ない地域では、タスクシフトやシェア(特定の職務のサービス提供を専門家から資格の低い人に移行したり、特定のトレーニングを受けたサービス提供者の新しい資格を作ること)が役立つかもしれません(10)。また、各国は、国際共同研究を通じて、世界の精神保健当局や研究コミュニティに支援と指導を求めることも検討すべきです。

中国をはじめとする世界各地で発生した過去のアウトブレイクから得られた教訓を踏まえれば、すべてのアウトブレイクを効果的に抑制するためには、公衆衛生の準備と緊急時対応計画に公衆精神衛生の介入を正式に統合すべきです。しかし、COVID-19に対する世界保健機関(WHO)の戦略的準備・対応計画では、いかなる種類の精神衛生上のニーズに対応するための、いかなる戦略もまだ示されていません(4)。ウイルスが世界的に拡大する中で、政府はCOVID-19パンデミックの間、公衆精神衛生上のニーズに対応するために、よく調整された戦略的計画を策定し、実施することで、これらのニーズに対処しなければなりません。

REFERENCES

  1. Bouey  J. From SARS to 2019-coronavirus (nCoV): U.S.–China collaborations on pandemic response: addendum. Santa Monica (CA): RAND Corporation; 2020 [cited 2020 Mar 23]. https://www.rand.org/pubs/testimonies/CT523z2.htmlExternal Link
  2. The Novel Coronavirus Pneumonia Emergency Response Epidemiology Team. The epidemiological characteristics of an outbreak of 2019 novel coronavirus diseases (COVID-19)—China, 2020. China CDC Weekly. 2020;2:113–22.
  3. Brooks  SK, Webster  RK, Smith  LE, Woodland  L, Wessely  S, Greenberg  N, et al. The psychological impact of quarantine and how to reduce it: rapid review of the evidence. Lancet. 2020;395:912–20. DOIExternal LinkPubMedExternal Link
  4. World Health Organization. 2019 Novel coronavirus (2019-nCoV): strategic preparedness and response plan Feb 3, 2020 [cited 2020 Feb 7]. https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/srp-04022020.pdfExternal Link
  5. Shultz  JM, Cooper  JL, Baingana  F, Oquendo  MA, Espinel  Z, Althouse  BM, et al. The role of fear-related behaviors in the 2013–2016 West Africa Ebola virus disease outbreak. Curr Psychiatry Rep. 2016;18:104. DOIExternal LinkPubMedExternal Link
  6. Person  B, Sy  F, Holton  K, Govert  B, Liang  A, Garza  B, et al.; National Center for Inectious Diseases/SARS Community Outreach Team. Fear and stigma: the epidemic within the SARS outbreak. Emerg Infect Dis. 2004;10:358–63. DOIExternal LinkPubMedExternal Link
  7. Mak  IW, Chu  CM, Pan  PC, Yiu  MG, Chan  VL. Long-term psychiatric morbidities among SARS survivors. Gen Hosp Psychiatry. 2009;31:318–26. DOIExternal LinkPubMedExternal Link
  8. National Health Commission of China. Principles of the emergency psychological crisis interventions for the new coronavirus pneumonia [in Chinese] [cited 2020 Feb 7]. http://www.nhc.gov.cn/jkj/s3577/202001/6adc08b966594253b2b791be5c3b9467External Link
  9. Liang  D, Mays  VM, Hwang  WC. Integrated mental health services in China: challenges and planning for the future. Health Policy Plan. 2018;33:107–22. DOIExternal LinkPubMedExternal Link
  10. World Health Organization. Joint WHO/OGAC technical consultation on task shifting: key elements of a regulatory framework in support of in-country implementation of task shifting. Geneva: The Organization; 2007.

*記事の翻訳はCDCによるものではありません。(CDCのポリシーにもとづく掲示)
*翻訳は現時点での暫定的な情報を元に作成されています。本記事の利用については、各施設および個人の臨床医の判断と責任下で利用してください。

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テーマの著者 Anders Norén