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JAMA_COVID19感染による最重症患者の治療 
ECMOの潜在的な可能性について 

JAMA. Published online February 19, 2020.

オンライン公開: 2020年2月19日 

原文:https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2761778

本文:

・新型コロナウイルスは、中国において何千何万もの方々が感染し、世界中で急速に広がっている。世界保健機関(WHO)は、コロナウイルス2019(COVID-19)に対しての緊急事態を宣言し、患者管理に関する暫定ガイドラインを発表した。

・発生の震源地である武漢から出た報告では、感染の臨床症状が発熱、咳、呼吸困難であり、ウイルス性肺炎として矛盾しないCT読影所見を認めている。そして、これら患者の約15%〜30%が急性呼吸促迫症候群(ARDS)を発症しており、WHO暫定ガイドラインでは、難治性の低酸素血症の患者に対する体外式膜型人工肺(ECMO)の導入およびECMO専門センターへの患者転院を含めて、ARDSの治療に関する指針が示された。

・ECMOは、modified cardiopulmonary bypass体外循環の一種で、難治性の呼吸不全または低心機能を患う患者の体から静脈血を一度体外に吸い出して、人工膜肺を通して再び体に戻す治療である。静脈血に酸素が追加され、二酸化炭素が除去されることで、その血液は、別の静脈または大動脈を介して(呼吸不全と心機能低下のどちらかでの使用で選択される)患者の体に戻る。ECMOの実践においては多くの医療資源(専用の機材、消耗品、専門医師、技師)が必要であり、その実践においては高い専門性が要求される。そして、実践において必要となる費用も小さくない。さらに、出血や二次感染などの重大な合併症も不可避である。今回のCOVIDではないが、一般論としてARDSの最重篤症例群におけるECMO導入は死亡率低下に関連する結果が既に得られている。そして、ECMO導入の結果は、より大規模なセンターにおいて、より良い結果が得られるとも報告されている。

・COVID-19の管理におけるECMOの役割は、現時点ではまだはっきりしていない。中国ではCOVID-19の一部の患者で使用されたと報告があるが、詳細の情報は記載されていない。とはいえ、ECMOが、難治性呼吸不全COVID-19の管理に十分な役割を果たす可能性はある。

・しかしながら、ウイルスについて、まだまだ未知の事が多く、ウイルスがどこから生じたのか、ウイルス感染に伴う合併症の発生率、ウイルスの持続性、患者属性別の予後は明らかにされていない。

・ECMOの効果がはっきりしない今の状況は、2009年に同じくECMOの役割がはっきりしなかったインフルエンザA(H1N1)の出現時と似ている。とはいうものの、COVID-19を取り巻く不確実性の程度は、H1N1よりさらに大きく、より注意が必要。

・このような状況に適切に対処する為に、既存のレジストリおよび臨床研究グループの迅速な立ち上げが、体系的なデータ収集を促進するためにも大切である。その代表的な取り組みとして、既にELSOレジストリは、COVID-19の登録を開始しており、前向き観察研究が進行(準備)されている。

・ECMOは、全身の酸素供給量を増やし、人工呼吸器による肺損傷を軽減するが、それ以外の臓器(肺と心臓以外)を直接的にサポートは決してしない。COVID-19の重症患者のかなりの割合で、不整脈またはショック(血圧低下)を伴うという報告がされているが、それらの症例において難治性の多臓器不全にまで至ったか、そして今後の使用例において至ってしまうのかについて、現段階では明確な見解がない。その状況に至った際には、エクモの使用は残念ながら限定的にならざるを得ない。

・今回のCOVIDにおけるECMOの潜在的な利点を肯定(検証)していく過程においては、死に至る症例と病気そのもののメカニズムに関してより多くのデータが必要となる。今回のウイルスは、じりじりと進行する呼吸不全、敗血症性ショック、難治性の多臓器不全、虚血性心疾患や心不全などの併存疾患の悪化により死を引き起こすようだが、COVID-19の患者を対象とした大規模コホートの結果から、死因割合について明らかにする必要がある。

・(2月19日段階では)中国以外の発症数はまだまだ少ないが、おそらくローカルな伝播が確立された後に、多くの分散した基点を介して世界中に発生するだろう。既存のECMOプログラムを備えた高度なヘルスケアシステムのなかで発生した場合、そのプログラムが、ECMOの有用性に関する重要な情報を提供し、今後の世界全体でのエクモの需要を予測するのに役立つことだろう。

・もし、初期にECMOの治療が奏功する場合には、ECMOを持っていない医療機関は、臨床的に悪化トレンドであると予想される場合には、早い段階でECMO可能な施設への転院を検討するべきだ。ただし、結果として、転院した患者にECMOが必要でなかった場合においては、それはエクモプログラムを持つ病院に負担をかけることになる事も認識しておく必要がある。

・さらに言えば、このウイルスの感染度合いと集中治療を必要とする患者の総数が多くなるであろう事を鑑みれば、ECMOの積極導入を行う方針が、非常に大きな医療資源を消費する可能性がある事を理解しておく必要がある。各国は、COVID流行におけるECMO適応およびその医療資源をどこまで投下するかに関して、特に注意を払っていくべきだ。現段階ではCOVID-19へのECMOを実行のリスクベネフィットは流動的であると認識する。それは、多くの要因に依存していることを理解したうえで、ECMOが価値を発揮する場合とそうでない場合を見極める事が必要である。

・COVID-19でECMOを実施した患者の死亡解析が可能となり、そこに敗血症性ショックまたは難治性多臓器不全の患者が多く含まれた場合にはECMOによる有効性は低いと判断され、ECMOを治療戦略に盛り込まない判断がより早期からとられる可能性がある。ECMOはその特性故に、死亡率が高い場合には、その有用性が低いと考えざるを得ない。

・ECMOは数に限りがある。大規模なアウトブレイクにおいては、ECMOを提供できなくなる制約事項として、ECMO付属物(コンソールや使い捨ての医材)、専門的知識と経験を十分に有するスタッフ、感染隔離室があがる。そして、ECMO回路を構成する医材が中国で製造されているため、サプライチェーン(調達)を混乱させている可能性も考慮しなければならない。

・ECMO提供の体制は国によって異なる。例えば、アメリカや日本のように、ECMOの実施規制がなく、集約化されていない国では、多くの病院がECMOを持てる。しかしながら、それぞれの施設の経験症例数が少ない可能性がある(監修者コメント:逆に、基点を各地域に持つことを有効に活用し、下記のモデルを200万人エリアで内在することで、広く面をカバーする可能性)

・一方で、国全体や地域においてECMO専門施設と病院間の専用チームがあり、地域調整体制が前提となっている国として、ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール、カタール、イギリス、スウェーデンがある。イタリアなど一部の国では、2009年のインフルエンザA(H1N1)においてこのモデルを採用した。COVID-19においても、同様に対処される可能性があるだろう。

・このアプローチの利点には、ECMO管理の標準化(導入基準、導入後管理、データ収集)であり、ウイルスの封じ込めがもたらされる可能性がある。デメリットは、病院間転送が地域または国でうまく調整されない限り、ECMOを提供する病院に重症患者が集中するあることであり、ECMO終了後に転院で戻す仕組みも期待される(監修者コメント:最後の一文節は、日本のシステムを踏まえての追記)

・COVID-19重度呼吸器疾患に対するWHO指針でのECMO推奨により、この流行の初期にはECMO症例数が増加するだろう。しかし、限界点が訪れるかもしれない事を見据えておかなければならない。地域の症例数が、ECMOの提供数を超えて増加した場合には当然ECMO導入は難しくなり、システム全体の圧倒的な要求にもかかわらず、導入率は減少することになる。

・ECMO導入は、資源がある国においてはじめて可能となるが、他の治療を経てそれでも改善が見込まれないときに初めて対象とされるべきだ。ECMOはことさらに急いで最初に選択すべき治療法では決してない。それよりも、まずは適切に酸素投与とパルスオキシメトリーを活用する事でより多くの人命が救われる。

・ヘルスケアシステムを維持するためには、アウトブレイクを遅らせるための感染拡大抑制の努力が非常に重要だ。COVID-19の診断、適切な検疫と隔離。必要な患者への酸素投与、必要な患者への人工呼吸器管理。そして、真に有用であると考えられる患者においてECMOを提供すること。これらの全てをシステムとして提供する事で、すべての患者を正しい方向に導くと考えられる。(監修者コメント:最後の一文節は意訳)

著者: Graeme MacLaren、修士課程、心肺集中治療室、国立大学保健システム、5 Lower Kent Ridge Rd、シンガポール119074(gmaclaren@iinet.net.au)

日本語翻訳監修: 遠藤拓郎

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*翻訳は現時点での暫定的な情報を元に作成されています。本記事の利用については、各施設および個人の臨床医の判断と責任下で利用してください。

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