翻訳日:2020/03/24
更新日:2020/03/18
原文:Mental Health Considerations during COVID-19 Outbreak
2020年1月、世界保健機関(WHO)は 中国湖北省での新型コロナウイルス感染症のアウトブレイクを、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(public health emergency of international concern:PHEIC)と宣言しました。WHOは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中の他の国に広がるリスクが高いと述べました。2020年3月、WHOはCOVID-19がパンデミックであるとの評価を下しました。
WHOおよび世界中の公衆衛生当局は、COVID-19のアウトブレイクを封じ込めるために行動を起こしています。しかし、今回の危機は人々にストレスをもたらしています。これらのメンタルヘルスに関する考慮事項は、COVID-19アウトブレイク時の精神的および心理的ウェルビーイングを支援するために、WHO精神保健部門(WHO Department of Mental Health and Substance Abuse)によって開発されました。
一般の方へ
1. COVID-19は、様々な国々や様々な地域に住む人々に影響を及ぼしており、今後も影響を及ぼす可能性があります。COVID-19に罹った人について話すとき、いかなる人種や国籍にもCOVID-19を関連付けてはいけません。COVID-19に罹った人がどの国にいても、また、どの国から来ていても、共感を持って接してください。病気になった人は何も悪いことをしていないのです。彼らは、支援、思いやり、優しさを受ける権利があります。
2. 感染した人のことを「COVID-19症例」、「犠牲者」「COVID-19の家族」「病人」とレッテルを貼らないでください。彼らは「COVID-19にかかった人」「COVID-19の治療を受けている人」「COVID-19から回復した人」であり、COVID-19から回復した後は、仕事や家族、大切な人たちとともに人生を歩み続けるのです。スティグマを減らすためには、個人のアイデンティティとCOVID-19を切り離すことが重要です。
3.不安や苦痛を感じるようなニュースを見たり、読んだり、聞いたりすることは最小限にしてください。情報は、主に、計画を準備したり、自分や大切な人を守るための実践的な手段を講じたりするために集めましょう。1日1回または2回、決まった時間にだけ、更新された情報を追うようにしてください。突然、ほぼ絶え間なくアウトブレイクに関するニュースが流れると、誰でも不安な気持ちになります。事実を知りましょう。噂や誤情報に惑わされてはいけません。事実と噂を区別できるように、WHOのウェブサイト や地元の保健当局の情報プラットフォームから定期的に情報を収集してください。
■WHOウェブサイト:英語
https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019
■WHO神戸 日本語https://extranet.who.int/kobe_centre/ja/news/COVID19_specialpage
4. あなた自身の身を守り、周りの人を支援しましょう。必要なときに他の人を助けることは、支援を受ける人だけでなく、支援者の利益にもなります。
5. 地元で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を経験し回復した人や、大切な人の回復を支えた人、その経験を喜んで共有してくれる人の声、ポジティブな語りやポジティブなイメージを広げる機会を見つけましょう。
6. コミュニティでCOVID-19に罹った人々を支援する介護者と医療従事者に敬意を示しましょう。人命を救い、あなたの大切な人の安全を守るために、彼らが果たしている役割を認めてください。
医療従事者の方へ
7. あなたや同僚の多くが、プレッシャーを感じているでしょう。現在の状況でプレッシャーを感じるのはごく普通のことです。ストレスとそれに関連する感情は、決してあなたが仕事をすることができない、またはあなたが弱いことを反映しているわけではありません。この期間中に、メンタルヘルスと心理社会的ウェルビーイングを管理することは、身体的な健康を管理することと同じくらい重要です。
8. この時期は、体調管理に気をつけましょう。勤務やシフトの間に十分な休息と休憩をとる、十分で健康的な食事をとる、体を動かす、家族や友人と連絡を取り合うなどの対処法を試してみてください。タバコ、アルコールやその他の薬物のような無益な対処法をとるのはやめましょう。これらは、長期的には、あなたの精神的および肉体的ウェルビーイングを悪化させる可能性があります。多くの医療従事者にとって、特に同様の対応に関与していない場合には、COVID-19のアウトブレイクは独特で前例のない状況です。もしそうであっても、過去にストレスを受けた期間に使った戦略は、今、あなたに利益をもたらすことができます。あなたは、あなたがどのようにストレスを取り除くことができるかを最もよく知っている人であり、あなた自身を心理的に良好な状態に保つことに躊躇するべきではありません。これは短距離走ではなく、マラソンなのです。
9. 残念ながら、医療従事者の中には、スティグマや恐怖のため、家族やコミュニティから避けられる経験をする方もいるかもしれません。これは、この厳しい状況をより一層困難なものにするでしょう。可能であれば、大切な人とデジタル方式等で連絡を取り合うことは、つながりを保つ方法のひとつとなります。同僚、上司やその他の信頼できる人に、社会的支援を求めてください。同僚も、あなたと同じ経験をしているかもしれません。
10. 理解しやすい方法を使って、知的障害、認知機能障害、心理社会的障害を持つ人々とメッセージを共有してください。文章による情報のみに依存しないコミュニケーションの形態を活用しましょう。
11.COVID-19に罹った人に支援を提供する方法を知り、彼らを利用可能なリソースと繋げる方法を知りましょう。特に、メンタルヘルスや心理社会的なサポートを必要とする人にとっては重要なことです。メンタルヘルスの問題に関連したスティグマにより、COVID-19とメンタルヘルスの状態の両方のサポートを求めることに消極的になる可能性があります。The mhGAP Humanitarian Intervention Guide (英語:https://www.who.int/mental_health/publications/mhgap_hig/en/)には、優先度の高いメンタルヘルスの状態に対処するための臨床ガイダンスが含まれており、一般の医療従事者が活用できるようにデザインされています。
医療施設のチームリーダーや管理者の方へ
12. COVID-19への対応の間、すべてのスタッフを慢性的なストレスや精神的に不健康な状態から守ることで、彼らが役割を果たす能力を向上させることができます。この状況が一朝一夕に解消されるわけではないことを念頭に置き、短期的な危機対応を繰り返すよりも、長期的な職務能力を重視するようにしましょう。
13. すべてのスタッフに、質の高いコミュニケーションと正確な情報のアップデートがなされるようにしてください。高ストレスの任務をしている労働者を低ストレスの任務に回してください。経験の浅い労働者が、経験豊富な同僚と仕事を組むようにしてください。バディシステムは、支援の提供、ストレスのモニタリングや安全手順の強化につながります。アウトリーチ担当者がペアでコミュニティに入るようにしてください。勤務中の休憩を開始し、奨励し、監視してください。本人や家族がストレスフルな出来事の影響を受けている労働者に、柔軟なスケジュールを導入してください。同僚がお互いに社会的なサポートをしあえるための時間を作るようにしましょう。
14. スタッフがメンタルヘルスおよび心理社会的サポートサービスにアクセスできる場所を認識できるようにしてください。管理者やチームリーダーもスタッフと同様のストレスに直面しており、職責の程度に応じてさらにプレッシャーがかかる可能性があります。上記の規定と戦略が労働者と管理者両方に適用され、管理者がストレスを軽減するためにセルフケア戦略をロールモデル化できることが重要です。
15. 看護師、救急車運転手、ボランティア、case identifiers( 保健所やホットラインなどの相談員など) 、教員、コミュニティのリーダー、検疫所職員を含むすべてのレスポンダーに、COVID-19の影響を受けた人々に対し心理的応急処置(サイコロジカルファーストエイド) を用いて、基本的な情緒的および実践的な支援を提供する方法についてのオリエンテーションを行ってください。
■サイコロジカルファーストエイド:英語 https://www.who.int/mental_health/publications/guide_field_workers/en/
16. 救急医療施設または一般医療施設内で、緊急を要するメンタルヘルスおよび神経学的愁訴(せん妄、精神病、重度の不安、うつ病など)のマネジメントをしてください。適切な訓練を受けた有資格者を、時間が許す限り、これらの場所に配置する必要がある可能性がありますし、メンタルヘルスおよび心理社会的支援を提供するために、一般的な医療スタッフの能力を高める必要があります
■the mhGAP Humanitarian Intervention Guide(英語)
https://www.who.int/mental_health/publications/mhgap_hig/en/ を参照してください。
17. 医療のあらゆるレベルで、必要不可欠なジェネリック向精神薬が利用できるようにしてください。長期的な精神疾患やてんかん発作を抱えて生活している人は、継続して薬を服用する必要があり、突然の服薬中止は避けるべきです。
子どもの保護者の方へ
18.子供たちが恐怖や悲しみなどの不快な感情を表現する前向きな方法を見つけるのを助けましょう。すべての子どもには、感情を表現する彼らなりの方法があります。遊んだり絵を描いたりするなどの創造的な活動によって、このプロセスが促進される可能性があります。子どもたちは、安全で協力的な環境下で、不安な気持ちを表現し伝えることができれば安心します。
19. 子どもにとって安全だと考えられる場合は、子どもが親や家族と一緒にいられるようにし、できる限り保護者と引き離さないようにしてください。子どもを主な保護者から引き離す必要があるときは、適切な代替のケアがあること、ソーシャルワーカーおよび同等の人が定期的に子どものフォローアップをできることを確認してください。さらに、保護者と離れている間は、1日2回の電話またはビデオ通話、その他の年齢に応じたコミュニケーション(例:ソーシャルメディア)など、両親や保護者と定期的な連絡がとれるようにしてください。
20. 特に子どもが自宅にずっといなければならない場合は、なじみのある日課をできるだけ維持するか、新しい日課を作りましょう。学習のための活動など、子どもの年齢に適した魅力的な活動を提供してください。社会との接触を制限するように勧められた場合には、家族内であってもできる限り子供たちが他の人と遊び、交流を続けることを奨励してください。
21. ストレスや危機にある期間中、子どもたちは親に、より多くの愛着を求め、より強く要求することがよくあります。 COVID-19について子どもと、正直に、年齢に応じた適切な情報を用いて話し合ってください。子どもが不安を抱えている場合、一緒に対処することは不安を和らげるかもしれません。子どもたちは、大人の行動や感情を観察し、困難な時期に自分の感情をどのように管理するかの手がかりを得るようになります。
高齢の方、基礎疾患のある方や介護者の方へ
22. 高齢者、特に孤立している人や、認知機能低下もしくは認知症がある人は、アウトブレイク中や隔離中に不安、怒り、ストレス、動揺、引きこもりを生じやすいです。打ち解けた関係のネットワーク(家族)および医療の専門家を通じて、実践的および情緒的な支援を提供しましょう。
23. 何が起こっているかについての簡単な事実を共有し、認知障害のある/ない高齢者が理解できる言葉で、感染のリスクを減らす方法について、わかりやすい情報を提供してください。必要に応じて情報を繰り返し伝えてください。明確に、簡潔に、敬意を払って忍耐強く指示を伝える必要があります。また、情報を文書または絵で伝えるのも効果的です。家族やその他の支援ネットワークに情報を伝え、感染予防策(手洗いなど)の実践を手助けしましょう。
24. 基礎疾患がある場合は、現在服用している薬を入手できるようにしてください。必要に応じて社会的接触を開始し、支援を求めてください。
25. 必要に応じてタクシーを呼んだり、食べ物を届けてもらったり、医療ケアを依頼したりなど、どこで、どのようにして実践的な助けを得られるのかを、事前に準備をして覚えておきましょう。 必要になるかもしれない常備薬を2週間分まで用意しておきましょう。
26. 隔離中に自宅で毎日できるような簡単な運動を覚え、運動能力を維持し、退屈を紛らわせましょう。
27. できるだけ規則的な日課やスケジュールを守るか、定期的な運動や掃除、毎日の家事、歌や絵など、新しい環境で新しいものを作る手助けをしてあげましょう。大切な人と定期的に連絡を取り続けましょう(例:電話、Eメール、ソーシャルメディア、ビデオ会議)。
孤立している方へ
28. 人とつながりをとり、社会的なネットワークを維持しましょう。孤立している状況でも、できる限りあなた自身の日常生活を送るようにしてください。保健当局がアウトブレイクを封じ込めるために物理的な社会的接触を制限することを推奨している場合、電話、Eメール、ソーシャルメディア、ビデオ会議を介して人とのつながりを維持できます。
29. ストレスを感じているときは、あなたが必要と感じていることや感情に注意を向けてください。あなたにとって楽しんだりリラックスしたりできる健康的な活動に従事してください。定期的に運動し、普段通り規則的な睡眠をとり、健康的な食事をとってください。広い視野で物事をとらえましょう。あらゆる国の公衆衛生当局と専門家は、影響を受けた人々に最善のケアを確実に提供できるよう、アウトブレイクに取り組んでいます。
30. ほぼ絶え間なくアウトブレイクに関するニュースが流れると、だれでも不安になったり動揺したりします。医療の専門家やWHOのウェブサイトから、日中の特定の時間に最新の情報と実践的なガイダンスを得るようにし、不快感を覚えるような噂を聞いたりそれに従ったりすることは避けてください。
最新の情報はこちらをご覧ください。
COVID-19が蔓延している地域について:
https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/situation-reports/
日本語 https://extranet.who.int/kobe_centre/ja/news/COVID19_specialpage
WHOからのCOVID-19に関するアドバイスとガイダンス:
https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019
社会的なスティグマへの対処:
日本語 https://covid19-jpn.com/stigma/
COVID-19のメンタルヘルスおよび心理社会的側面への対応に関する短報:
*各記事の翻訳はWHOによるものではありません。(WHOのポリシーにもとづく掲示)
*翻訳文は当チームが翻訳を行った時点のWHOサイト掲載内容にもとづくもので暫定的な情報です。各記事に原文へのリンクを掲載しています。原文記載の発表日および当サイトでの翻訳日を各記事に記載していますので参照してください。
*セカンドチェックを行っていない1次翻訳の状態の場合があります。翻訳記事を利用する際は、各施設および個人の臨床医の判断と責任下で行ってください。 下記の「翻訳ポリシー・記事内容の利用について」のページもご参照ください。