翻訳日:2020/03/07
原文:COVID-19: a novel coronavirus and a novel challenge for critical care
2019年12月に原因不明の肺炎の症例が中国湖北省武漢で報告され、それらは華南水産卸売市場と関連がありました。現在COVID-19と呼ばれているこの疾患は、全ゲノムシーケンスとPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)そして感染患者の気管支肺胞洗浄液の培養によって発見され、SARS-CoV-2と名付けられた新型コロナウイルスによって引き起こされます。このウイルスはヒトへの感染が証明されている7番目のコロナウイルスであり、ゲノム類似性が重症急性呼吸子胃症候群コロナウイルス(SARS-CoV)と75-80%、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)と50%、そしてコウモリコロナウイルスと96%あります。そして、SARS-CoVと同様にアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を受容体として保持しています。
2020年3月1日の時点で87,137人のCOVID-19症例が中国をはじめとした53カ国からWHOに報告されたことが確認されました。中国で確認された79,394人のうち、2,838人が死亡しています。今後の患者増加予測から、特に集中治療領域においてアウトブレイクに対する世界的な懸念が高まっています。
本ウイルスはこの20年間において、国際的なアウトブレイクを引き起こし、相当数の罹患率と死亡率をもたらした3番目のコロナウイルスです。各アウトブレイクはそれぞれに特徴がありますが(表1)、現在進行中のCOVID-19アウトブレイクによって、集中治療医と救命救急領域はSARSおよびMERSアウトブレイクに直面した時と同様の課題に直面しており、過去から学ぶことのできるいくつもの教訓があります。
表1. COVID-19とMERSおよびSARSの比較
COVID-19 | MERS | SARS | |
疫学的リンク | 武漢(中国) | アラビア半島 | 広東省(中国) |
宿主動物 | 不明、コウモリの疑い | ヒトコブラクダ | ジャコウネコとコウモリの疑い |
ヒトーヒト感染 | あり | あり | あり |
院内感染 | あり | あり | あり |
医療従事者へのリスク | あり | あり | あり |
感染者が報告された国 | 54 | 27 | 26 |
感染者総数 | 85,403 (2020/3/1現在) | 2494 | 8437 |
重症患者の臨床的特徴 | |||
年齢(歳) | 60 | 58 | 57 |
並存疾患 | 40% | 80% | 不明 |
ARDS/肺炎 | 主症状 | 主症状 | 主症状 |
ショック/多臓器不全 | あり | あり | あり |
侵襲的機械的換気 | 42% | 85% | 76% |
昇圧薬 | 35% | 79% | 44% |
腎代替療法 | 17% | 49% | 11% |
死亡率 | 62%と予測 | 67% | 34% |
現時点で集中治療医にとって最大の課題は、いつCOVID-19を疑うかということです。現在、COVID-19の重症患者の臨床的特徴と自然経過に関する利用可能なデータは限られています。2019-nCoV患者138名の研究では、36/138名がICUに入院し、ICU入院を必要としない患者と比較してかなり高齢で(中央値66歳vs51歳)、併存疾患を有する率が高かった(72% vs 37%)ことが報告されています。ICUでは11%の患者がネーザルハイフローを、15名(44%)がNPPVによる管理を必要としました。機械的人工換気は17名(47%)に行われ、うち4名に対してECMOが使用されました。また、興味深いことに44%がICUで不整脈を発症したと報告されています。52名の重症患者に関する別の研究では、平均年齢は60歳で患者の40%が何らかの慢性疾患を患っており、患者の67%がARDS、29%が急性腎障害、23%が心臓障害、29%が肝障害を発症しました。患者の71%が侵襲的または非侵襲的な機械的換気を受け、28病日までに62%が死亡しています。重症患者の報告の大多数が成人例であり、これまでのところ小児感染者の重症例に関するデータはほとんどありません。
MERSやSARSと同じように、COVID-19に目立った臨床的特徴はなく、症状は他の重症急性呼吸器感染症と類似しています。現在疾患そのものや自然経過、予後不良因子をより適切に定義するために、世界中の患者について臨床的特徴決定のためのプロトコルが集められています。
COVID-19を疑うことは、特にこれまで発症がまれであった地域では困難ですが、現在公衆衛生上の警戒レベルは強化されています。したがって、臨床医は感染地域への旅行歴など、現在のCOVID-19の症例で分かっている疫学的リンクに頼らざるを得ませんが、これは感染拡大が続くにつれて変化する可能性があります。MERSやSARSアウトブレイク時には、診断の遅れや見逃しが、他の多くの患者や旅行者、医療従事者を感染に晒すことになりました。さらに、現在利用可能な検査は感度について正式に検証されておらず、さらに多くのデータが利用可能になるまでは、臨床経過においてPCR陰性を慎重に解釈する必要があります。
サージキャパシティへの対応
アウトブレイクによりICUベッドのニーズが大幅に増加する可能性がありますが、同時に利用可能なベッドが減少する可能性があります。トロントでのSARSの発生により、主に病気や検疫のためのスタッフ不足が原因で、3次医療機関のICUベッドの38%が10日間閉鎖されました。したがって、病院には常にICUの収容人数を増やす計画が必要であり、これには一般病棟をICUに変換することも含まれます。
感染予防と制御
院内感染と医療従事者への感染は、SARS, MARS, COVID-19アウトブレイクの共通した特徴です。ある報告によると、入院したCOVID-19患者の41%が院内感染であり、その中には他の理由で入院中の患者や医療従事者が含まれていました。ICUスタッフはスタッフ自身、他の患者、および訪問者を保護するために、厳格な隔離予防策を行う必要があります。現在の推奨は、接触、飛沫予防策とエアロゾルが発生する可能性がある手技を実施する際の予防策です。ウイルスが無生物環境で長期間生存可能であるという懸念があるため、ICUの環境消毒には特別な注意を払う必要があります。集中治療医は常に知識をアップデートし、地域に感染制御戦略を広めるために地域の公衆衛生当局と連携すべきです。医療用マスクやN95マスク、アルコール手指消毒剤、表面消毒剤など、感染制御に必要な物品の消費は、アウトブレイク中に大幅に増加します。院内感染を減らすためには、製造業者から最前線の医療スタッフまでの適切なサプライチェーンを確保することが重要です。
スタッフの保護
スタッフを守ることも重要な課題です。呼吸器症状が出現した医療従事者は、検査結果が判明するまで感染患者の追跡のために自宅待機が求められるため、アウトブレイク中には病気休暇取得者が増えます。ウイルス排泄量が多いと考えられる重症患者への長期間にわたるケアは、ICUスタッフにとって大きな曝露リスクになります。MERS, SARS, そしてCOVID-19に関連した医療従事者の重症感染症や死亡が発生しており、スタッフに大きな心理社会的ストレスがかかっています。SARS, MERS発生中に、医療従事者は自分自身や家族の健康に対する懸念や、恐怖や不安、さらには社会的偏見やスティグマ化による苦痛にさらされていたことも報告されています。
COVID-19に関する追加情報
新興感染症として、特異的な抗ウイルス療法や免疫調節の役割、臓器障害を改善するための戦略を含む最適な治療法を見出すための研究は喫緊の課題です。この白書の執筆時点で、コルチコステロイドやリバビリン、ロピナビル/リトナビル、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、インターフェロンなどの薬剤を含む160以上のランダム化および非ランダム化試験があります(http://www.chictr.org.cn/searchprojen.aspx and http://apps.who.int/trialsearch/default.aspx)。重症のCOVID-19に対してはレムデシビルのRCTが実施されています(NCT04257656)。
過去の進行感染症のアウトブレイクから多くの教訓が得る必要があります。なぜならば、臨床の疑問を解決するためのRCTには時間がかかるためです。COVID-19においては、WHOがGlobal Research Collaboration for Infectious Disease Preparedness (GLOPID-R)と合同で2020/2/11-12にGlobal Research and Innovation Forumを開催し、特に臨床的特徴や治療法、診断法の解明などのアウトブレイクに関連する項目を、研究の最優先事項として示しました。The REMAP-CAP (Randomized, Embedded, Multifactorial Adaptive Platform Trial for Community-Acquired Pneumonia)は重症死中肺炎のICU患者を対象としたpre-planned, pre-approvedの試験としてデザインされています。この試験は現在3大陸13か国、52施設で募集されており、さらに35-40の施設でアクティブ化されています(https://www.remapcap.org)。この試験は多因子性であり、複数の介入とその相互作用の独立した効果を分析でき、評価中の介入の優位性、劣性、同等性に関する統計的信頼性が十分となれば、すぐさまベイズ統計を用いた分析が行われます。COVID-19に対して有効性が期待される介入を評価するために、REMAP-CAPの試験プロトコルに緊急の変更が加えられています。COVID-19の感染が拡大した際には、REMAP-CAPに参加できる施設の数を大幅に増やす計画があります。
現在何万人もの患者を生み、感染拡大が続いているCOVID-19は世界中のICU医師にとって大きな懸念事項です。その備えにおいては、サージキャパシティへの対応、感染制御プロトコルの確認および検査体制の評価が必要です。過去のコロナウイルスのアウトブレイクの経験から学ぶことで、効果的な対応が可能になり、感染患者へ可能な限り最高のケアを提供すると同時に、自分自身と地域を守ることにつながります。
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